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最高裁判所第二小法廷 平成5年(行ツ)183号 判決

秋田県南秋田郡大潟村西二丁目二番地の一四

上告人

菅野芳昭

南秋田郡大潟村西二丁目二番地の三一

上告人

鈴木教示

南秋田郡大潟村西二丁目二番地の二九

上告人

田村武

南秋田郡大潟村西一丁目二番地の二四

上告人

郷津公子

右四名訴訟代理人弁護士

金野繁

秋田市土崎港中央六丁目九番一三号

被上告人

秋田北税務署長 古川勇人

右指定代理人

須藤義明

右当事者間の仙台高等裁判所秋田支部平成三年(行コ)第二号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成五年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人金野繁の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は、正当とし是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

(平成五年(行ツ)第一八三号 上告人 菅原芳昭 外三名)

上告代理人金野繁の上告理由

第一、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな所得税法及び所得税法施行令違反の違法がある(以下、用語は原則として原判決の例による。又、原告には承継人を含む。)

一、本件の争点は、

1、原告(上告人)主張負担金は農地の取得価額に算入されるべきものか、それとも繰延資産として必要経費とすべきものか。

2、本件負担金等に土地改良通達が適用されるか。

であった。(一審判決五枚目表)

二、原判決(一審判決も含む)は、

『本件原告(上告人)主張負担金は農地の取得価額であり、繰延資産でないから必要経費にならない』

と認定した。

原判決のこの争点に対する判断は、一審原告(上告人)らが国から配分を受けた農地は所得税法二条一項十八号、十九号の「固定資産」であるが、減価償却資産の取得価額についてのみ所得税法施行令(以下、令という)一二六条で規定しているので、非償却資産の取得価額の範囲についても令一二六条を準用すべきとした上、この減価償却資産の取得範囲に関連する所基通達、及び法基通達を参考ないし適用して、

『その負担金が実質的には取得した資産の代価として認められる限り、税法上、その負担金は「取得価額」として取扱うべきである。』(一審判決八枚目表)。

『また、所有権を取得することがない公共的施設に対する負担であってもすべてが減価償却資産ないし繰延資産となるのではなく、その施設の性格に応じて、すなわち、直接その土地の効用を形成すると認められる施設の取得に要した費用については取得価格に算入される』(一審判決八枚目裏)

とし、次いで本件負担金等元金の性格を検討し、

『そもそも本件負担金等元金は実質的には農地の対価と見るべきものである。』(一審判決一〇枚目裏)

『法形式上は原告(上告人)らが農地を原始取得したもので譲渡という形をとられていないものの本件負担金等元金はその実質は配分を受けた農地の対価と考えるのが妥当であり』(一審判決一二枚目裏)

『公共的施設の設置のための負担金ということから直ちに繰延資産に該当するものでない。』(一審判決一三枚目裏)

『また、原告(上告人)らは、被告(被上告人)は、本件賦課金元金のうち、圃場工以外の費用部分(暗渠工、客土工、小排水路工、小用水路工、農道工等)を繰延資産の金額として取り扱っている以外、右各工事に対応し、しかも右施設よりも公共性の強い工事の費用部分に対するものである原告主張負担金も繰延資産とすべきであると主張しているが、弁論の全趣旨によれば、本件負担金等は、農地の取得価額に算入されるべきものであるが、八郎潟干拓事業の特殊性から例外的に右費用を繰延資産の金額として取り扱ったにすぎないものと認められるから、原告らの右主張も採用することができない。』

とした。

要するに、減価償却資産の取得費から非償却資産である固定資産の土地の取得費を類推し、本件原告(上告人)ら主張の負担金は土地の取得費と認定した。

三、この解釈は、所得税法第二条(定義)一項十八号固定資産、十九号減価償却資産、二十号繰延資産、所得税法施行令第五条(固定資産の範囲)、第六条(減価償却資産の範囲)、第七条(繰延資産の範囲)の解釈適用を誤り、その結果、法第四款必要経費等の計算、第二目資産の評価及び償却費、第四九条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却方法)、令一二六条(減価償却資産の取得価額)を適用し、本件原告(上告人)ら主張の負担金は令一二六条の「当該資産の購入の代価」と「当該資産を直接業務の用に供するために直接要した費用の額」であるとし、繰延資産に含まれないと認定したものである。

(一)、法第二条一項十八号は固定資産、十九号は減価償却資産、二十号は繰延資産を定義し、令第五条、第六条、第七条は各その資産の範囲を定めている。特に令第五条は固定資産の範囲として「繰延資産以外の資産」とし、又令第六条では減価償却資産の範囲とし「繰延資産以外の資産」としている。

従って繰延資産に含まれる資産は、固定資産にも減価償却資産にも該当せず、繰延資産はこの定義と令七条から定まり、固定資産や償却資産の範囲から繰延資産を認定することは違法である。

そこで詳細に論ずるまでもなく、原判決は固定資産の土地取得費を令一二六条を適用して減価償却資産の所得費から割出し、減価償却資産の取得費と本件原告(上告人)主張負担金を実質的に同一(又は類以)と見て本件原告(上告人)主張負担金は固定資産である土地、すなわち原告(上告人)らが配分を受けた農地の取得費であって、繰延資産ではないとしたものであり、令一二六条の解釈適用を誤った違法がある。

要するに、繰延資産の定義と範囲が法定されているのに減価償却資産の必要経費となる取得費の態様ないし性質から固定資産である土地の取得費を類推し、一審原告らが配分を受けた農地に対する本件負担金等元金(繰延資産とした本件賦課金元分の一部を含めて)をその代価と認定したものである。

(二)、本件負担金元金のうち、原告(上告人)主張負担金元金は繰延資産であることは法二条一項二十号の繰延資産の定義、令七条(繰延資産の範囲)の規定を適用し、土地改良通達を参考にして定まる。

すなわち、令第七条は繰延資産の範囲として、

二、試験研究費、三、開発費、四、前三号に掲げるもののほか次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもの、イ、自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用

と定め、これを受け、土地改良事業のため支出する受益者負担金に対する所得税の取扱いについてのいわゆる土地改良通達(乙第一号証)は、一において土地改良事業に要する費用で受益者が負担すべき金額(以下、「受益者負担金」という)のうち〈1〉永久資産(公道その他一般の用に供される道水路を除く)取得費対応部分は必要経費不算入とし、〈2〉減価償却資産及び公道その他一般の用に供される道水路の取得費対応部分は繰延資産に該当するものとして償却額を必要経費に算入するとしている。

すなわち、受益者負担金のなかには永久資産、減価償却資産及び繰延資産があるということを示している。これからも減価償却資産の取得費から永久資産(土地)の取得費を適用ないし準用し、受益者負担金は土地である農地の取得費とした原判決の論理がおかしいことがわかる。

なお、ここでいう受益者負担金には後記のとおり本件負担金等元金が含まれる。

(三)、本件負担金等元金の性格は、原判決が九枚目表2、本件負担金等元金の性格(一)八郎潟干拓事業と本件負担金等の概要と同じでありこれを引用するが要約すると、八郎潟干拓事業は湖を干陸し大規模農場を建設する目的で国営事業として干拓のための堤防工、幹線となる排水路工、用水路工、及び道路工等がなされ、事業団事業として農地、宅地その他の用に供する土地の整備等がなされ、農地の整備としては圃場工、暗渠工、客土工、小排水路工、小用水路工、農道工及び防災林工が施行された。

一審原告(上告人)らは国から農地を配分されて土地改良法九四条の八・五項により所有権を取得し、国営事業の負担金元金は土地改良法九〇条一項、三項の規定により、国が行った費用に充てるものとして、干拓から生じた土地の所有権を取得した者に対して賦課されるものであり、事業団事業の賦課金元金は事業団が行った土地の整備に要した費用の全部又は一部を充てるものとして八郎潟新農村建築事業団法二三条一項及び二項の規定によりその土地の整備により利益を受ける土地の取得者から徴収されるものであり、一審原告(上告人)らは所有権を取得した者として、本件負担金元金を、利益も受ける土地の取得者として、すなわち受益者たる入植者(八郎潟新農村事業団誌一一頁・乙第三六号証)として本件賦課金元金を負担するものである。

国営事業も事業団事業も、土地改良事業であることは土地改良法第二条(定義)二項一、農業用排水路、農業用道路その他農用地の新設、三、農用地の造成、四、埋立又は干拓を土地改良事業であるとしていることからもわかる。そして一審原告(上告人)らは土地改良法九四条の八・五項により農地につき所有権を取得した者であり、又、事業団事業の土地の整備により利益を受ける土地の取得者であるから土地改良通達の本件負担金等元金は土地改良事業に要する費用で受益者が負担すべき金額に該当する。

(四)、従って、本件負担金等元金には、永久資産、償却資産及び繰延資産の各取得費対応部分があることになる。

これは何れも土地改良通達のみからの帰結ではない。

令六条(減価償却資産の範囲)は、減価償却資産は繰延資産を除く次に掲げるものとして、一、建物及びその附属設備(略)、二、構築物(ドック、橋、岸壁、さん橋、敷道、貯水地、抗道、煙突、その他土地に定着する土木設備又は工作物をいう。)、三、機械及び装置、をあげるので、この規定から減価償却資産対応部分の本件負担金等元金がわかる。

又、令七条(繰延資産の範囲)については先に述べたとおり、四、イの自己が便益を受ける公共的施設、又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用が繰延資産対応部分に該当する。

ただ、減価償却資産と繰延資産との区別はそれ程重要ではない。何れも償却(経費となる)される資産で土地改良通達は一〈2〉で、減価償却資産……の取得費対応部分は繰延資産に該当するものとして必要経費に算入し、としているからである。(両資産は、資産の態様、性質、取得費にも類似のものがあるので、土地改良通達は同一に取扱っているのであろう。)

従って、原判決(一審判決)四枚目表四行目以下の認定のとおり一審判決添付の別表の各〈5〉(亡郷津恒夫については〈6〉)は事業団事業の賦課金元金(賦課金のうち年賦償還金に伴う利息部分を除いた金額)のうち、圃場工事以外の工事(暗渠工、客土工、小排水路工、小用水路工、農道工等)費用対応部分を一審被告(被上告人)は繰延資産として取扱ったものである。

この取扱は、土地改良通達三、繰延資産の償却額の必要経費算入方法(区分計算、又は按分計算、その実際の計算式は事業団事業の内、繰延資産相当額の計算、甲第三号証の二)を採用したものであり、四の省略計算をしなかったことには不満があるが、本件賦課金元金に繰延資産対応部分を認めたことは、法令及び土地改良通達を正しく解釈適用したことで評価できる。

そうであるならば、事業団事業より一層公共性が強い国営事業による事業費には、事業団事業と同様に繰延資産対応部分の費用があることになる。

具体的に指摘すると、国営事業として原判決が挙げる干拓のための堤防工、幹線となる排水路工、用水路工、及び道路工は、令七条四号イの自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用に該当する。

そして結局、用地(干拓後の土地)取得費と漁業補償費(甲第四〇号証の集計表)のみが永久資産の対応費用に該当する。

国が負担金計算の資料とした集計表(甲第四〇号証の集計表)中、船舶機械器具室は令六条(減価償却資産の範囲)一号の建物及びその附属設備に該当し、船越水道水門工は同項二号の構築物に該当し、それぞれ減価償却資産であろうし、営繕官舎費、全体実施設計旅費は令七条(繰延資産資産の範囲)一項一号の開業費に、測量及び試験費は右開業費か同項二号の試験研究費に該当し、繰延資産となる。

従って、その余の工事費用は同項四号イに該当し、繰延資産に対応する費用となる。

土地改良通達一は、減価償却資産や道水路の取得対応部分を繰延資産として取扱っているので、結局永久資産以外はすべて繰延資産となる。

(五)、そうすると、本件負担金等元金は、うち本件賦課金元金のみならず永久資産と繰延資産が混在し、区別の困難性があり且つ小額であるからすべてに土地改良通達が適用され、特に四、賦課金の必要経費不算入額の区分計算の省略(省略計算)が許され、一〇アール当たり一万〇、〇〇〇円以下の負担金等は経費に算入されるのである。

又、本件負担金元金のうち、原告(上告人)主張負担金元金は繰延資産対応部分であるから、土地改良通達三の区分計算を適用したとしてもその大部分は経費となるのである。(これは甲第四〇号証の集計表中、総事業費総計が四六〇億余で用地及び補償費が三五億余りであることも解る。)

(六)、以上のとおり、原判決が前記法令を正しく解釈適用し、土地改良通達を適用すれば、本件負担金等元金の区分省略が認められ、一審原告らの請求が認容されたことが明らかであるから、その解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

四、原判決は、土地改良通達の適用についても前記法令の適用を誤った。

(一)、原判決は土地改良通達の趣旨として、

『土地改良通達は、その表題のとおり、土地改良事業のために支出する受益者負担金に対する所得税の取扱いについて定めたものであり、その一は受益者必要経費算入の通則で必要経費の範囲を明らかにし、二は永久資産取得費の範囲で永久資産の定義付けをし、三は繰延資産の償却額の必要経費算入方法を定め、四は賦課金の必要経費算入額の区分計算の省略を定めたもので、一定の要件を満たせば、永久資産取得費と繰延資産取得費等とを区分計算せず必要経費に全額算入してよいと規定されている。土地改良通達は、農業経営者か支出する受益者負担金は、農用地の整備・造成費用・水路・溜池の堀さく費用・公道・農道の盛土(整地費用)・畦畔の建築費及びこれらの工事の測量費等各種の費用に相当する部分が混在しており、受益者負担金のうちいかなる費用に該当する部分の金額が繰延資産や改良費に属する部分の金額に該当するかの判断は非常に複雑であり、各々の農業経営者に判断を委ねたのでは取扱いが区々となるおそれがあるため、統一的な処理のため設けられたものである。そして、一般的に行われている土地改良事業の場合、永久資産たる土地の取得費に対応する部分、繰延資産に対応する部分、及び毎年の維持管理費に相当する部分とが混在しているのが通常であるが、土地の取得費に対応する部分は比較的少額であること、農家の場合、一般的に記帳慣行が乏しく煩雑な区分計算を求めることは困難であること等の事情を勘案し、かつ行政上の少額不追求の観点から許容される範囲内で取扱の簡素化を図る趣旨で、区分計算の省略を認めたものと考えられる。』

と述べている。(一審判決一五枚目裏から一六枚目表末行)

(二)、ところが、一審原告らの八郎潟干拓事業の土地改良事業の一つであるから、本件負担金等にも土地改良通達が適用されるという主張を排斥した。

(1)、その理由の一つは、本件負担金等元金は、本来は農地の取得費に全額算入されるべきであるから、区分の困難性、区分計算の困難という事情はなく、又その額も多額であって、土地改良通達を適用する前提を欠くとしている。

しかし、本件負担金等元金を農地の取得費と判断したことは前記法令に違反したものである。

従って、これを正しく適用するとすれば、区分の困難性、区分計算の困難性があり、右通達が認める小額である一万〇、〇〇〇円を経費の限度として区分計算省略が認められるので、この通達が適用されなければならない。

(2)、理由の二つとして原判決は、

『土地改良通達の二(永久資産取得の範囲)は「必要経費に算入しない永久資産の取得費対応部分の金額は、土地改良事業の工事費のうち、土地改良施設等の土地の取得費及び農用地(畦畔を含む)の整地造成に要した部分の全額とする。」と定めている。右通達における「土地の取得費」とは「土地改良事業の工事費のうち」とあること及び「土地改良施設の敷地等」と例示されていることからして、あくまでも土地改良の事業主体が土地改良事業の一環としてなした土地改良施設の敷地等の「土地の取得費」を意味する。そして、右のような「永久資産の取得費」も本来必要経費には算入されないものであるが、土地改良通達の四により区分計算の省略が認められることになる。結局、土地改良通達の四により区分計算の省略が認められる永久資産の取得費は土地改良事業のうちの右のような意味での「永久資産の取得費」のみであり、永久資産取得費一般について区分計算の省略を認めたものではなく、同通達の二の文理解釈からして、農用地の取得費については同通達の二の「永久資産の取得費」に含めることはできないものと言わざるを得ない。』

としている。

イ しかし、原判決は、農用地の取得費について、同通達二の「永久資産の取得費」に含めることができないとしているが、これは本件負担金等元金をすべて農地の取得費と構成するからそうなるもので、先に指摘した法令違背の結果である。右通達の一、(受益者負担金の必要経費算入)、二、(永久資産の取得費の範囲)によると受益者負担金のうち、すなわち本件負担金等元金のうち永久資産の取得費対応部分の金額は土地改良施設の敷地等の土地の取得費および農用地の整地造成に要した部分の金額とするとしていて、農用地の敷地は、土地改良施設の敷地に含まれているが、いずれも「取得費」そのものではなく、その「対応部分の本件負担金等」が永久資産対応部分として必要経費に算入しないとしているのである。

本件でいえば前記の本件負担金元金のうち、用地及び補償対応部分がこれに相当する。

又、本件賦課金元金中、農用地の整地、造成費用である圃場工の費用、対応部分がこれに該当する。

ロ 次に、原判決は

『あくまでも土地改良の事業主体が土地改良事業の一環としてなした土地改良施設の敷地等の「土地の取得費」を意味しているものと解される。

右のような「永久資産の取得費」も本来必要経費に算入されないものであるが、土地改良通達の四により区分計算の省略が認められる。』

としながら、永久資産取得費一般について、区分計算を認めたものでないとして同通達の適用を否定した。この論理には矛盾がある。

ハ 又、

『あくまで土地改良事業主体が土地改良施設の敷地等の「土地の取得」を意味する』

とは意味不明であるが「一審原告らの配分による土地の取得費に対応する工事費(用地の取得も含む)は含まれない」と原判決は述べているのであろうか。

先に一審被告は干拓により新たな農用地を造成した大潟村の入植者に課する負担金等については、本件土地改良通達が適用されない等と主張していたときがあったが、これと考え併せると、本件土地改良通達は、受益者の負担金(本件負担金等元金を含む)中、受益者が必要経費として算入する金額の取り扱いについてのものであり、納税義務のない土地改良事業の主体に対してのものではない。

尚、国営事業による利益を受ける者に対して、負担金が徴収されることについて土地改良法の解説はこれらの受益者は、結局事故の負担において土地改良をしたことになる。このことはあたかも土地改良区の組合員が自己の負担において土地改良をしたことと同様であるとしている(土地改良法解説二八六頁甲第五二証)

ニ 次に原判決は、大潟村に入植するに当たり、農地を譲渡して入植した者には本件負担金等元金相当額を買換資産の取得金額として取り扱ったので、本件負担金等元金に土地改良通達の適用があるとすると不合理であるとする。

しかしながら、既存の農地を売って入植した者のみに、買換資産の特例扱いを法の適用としてではなく事実上認めに過ぎず、受渡農地がなく、この適用を受けなかった入植者も多数いるので、かえってすべての入植者にこの土地改良通達を適用することが公平である。

一部の入植者に譲渡所得税を免除したことと、すべての入植者が負担する本件負担金等元金の税法上の取り扱いが異なることは当たり前である。

ホ 原判決は、更に

『本件負担金元金等の額が単位区分毎に一〇アール当たり一万円と仮定して本件土地改良を適用すると、土地の取得価額となるべき金額の全額が必要経費に算入される結果、農地の取得価額が零円となり、土地の取得費を必要経費不算入とした実体法の規定に著しく反する。』

とするが、本件負担金等元金は、農地の取得費ではなく、又将来の譲渡所得の計算に当たっては取得費としての基礎控除額がそれだけ低くなり、結局それだけ負担する税が多くなる。

更に、本件負担金は利益の部分を含んでいるので、その償還額の負担金等元金部分は年々増加し、一万〇、〇〇〇円を越えることになる。

尚、土地改良法第四二条(権利義務の承継及び決済)によれば一審原告が本件負担金等元金を負担する農地を譲渡した場合、買受人が本件負担金等の未払い部分(将来の負担金、賦課金を含む)を負担するが、買受人からすれば、その負担金等元金は譲渡の「取得費」とならないであろう。ここでも、本件負担金等元金は農地の「取得費」に当たるとする説の不合理性が解る。

ヘ 一審判決は、

一審被告は、本件賦課金元金のうち、繰延資産扱いした部分は、本来は取得価額に算入されるべきものを例外的にその一部を繰延資産扱いとしたため、同通達の二(三の誤りか)を利用したに過ぎないから国営事業の負担金に適用しないからと言って矛盾するものではないとする。

すなわち、ここでも、本件賦課金元金は本来取得価額に算入されるべきだという誤りを犯している。

第二、原判決は、理由齬齟の違法があり、又民事訴訟法第一八五条(自由心証主義)の採用法則に違反し、この法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、前記第一、四、(二)、(2)、へで指摘したとおり、原判決は一審被告(被上告人)が本件賦課金元金のうち繰延資産扱いにした部分につき、その繰延資産相当額を土地改良通達を適用して算入しているのは、本来は取得価額に算入されるべきものを例外的に一部を繰延資産扱いとして同通達二を適用したと認定した。

しかし、一部を繰延資産扱いにしたことが、「例外的」又は例外だという証拠は一つもない。

又、「例外的」な理由も付されていない。

この、例外的取り扱い理由として一審被告は一審準備書面(二)において「その理由は、広大な八郎湖の湖底を陸地化し………農地に整備するという大事業であり、かつ竣工するまでは各種工事が行われたという特殊事情があったので、本件負担金等元金の取り扱いに当たっては農地の取得費に算入するもののほかに例外的に農地の取得費以外の費用(繰延資産)に該当するものを認めることが妥当と判断した」というのである(同書面一七頁)

この理由に述べている大事業かつ特殊事情はそっくり国営事業に当てはまる。

一審被告自身が同書面で「八郎潟干拓事業のうち農地の造成事業については、干拓から農地として整備するまでの事業を国と事業団が一体となってすすめたものであり、したがって、国営事業にかかる負担金及び事業団事業にかかる賦課金のそれぞれの法的根拠は異なるものの、これらの負担金及び賦課金は実質においていずれも農地たる土地の造成までの費用負担であって、農地に関する限りその性質において差異はほとんど認められないのである。」(同書面一一枚目表九行目から裏一行目)と述べている。

そうすると、本件負担金元金と本件賦課金元金とは繰延資産の範囲の上でも税の取り扱いの上でも「例外的」に取り扱う必要と理由は全くない。

だから、一審被告が本件賦課金元金に土地改良通達の区分計算を適用した以上に、すべての本件負担金等元金に土地改良通達四の省略計算を適用してなした一審原告(上告人)らの本件所得税の申告が妥当なのである。

二、したがって、右事実認定において全く同一性質といってよい本件賦課金元金には改良通達を適用し、本件負担金元金にはこれを適用しなかったのは、理由に食い違いがあり、又「例外的」という証拠がないのに「例外的」に認定したことは採証法則違反があり、この違背がなければ、一審原告(上告人)らの請求が認められなければならないから、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

以上

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